シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ミッションインポッシブルから脱出したい

巷で相当話題になっているトム・クルーズがミッションインポッシブル 7 の撮影中に撮影中にめちゃくちゃキレて怒鳴り散らした話だ。あちこちで取り上げられているので、みんな知っている話だとは思うが、念の為概要を説明しておく。

現在イタリアでミッションインポッシブル 7の撮影中なのだが、座長であるトム・クルーズは感染者を出さないために神経をすり減らしている。感染者が出れば、すでに何度か中断している撮影がまた中断してしまう。今はエンターテイメント業界は虫の息だ。この映画の公開予定は来年の秋だが、それまでにはちょうどパンデミックが収束してきているだろうと予想されており、沢山の観客を動員できると考えられる。この映画を今撮影して作成し続けることは、パンデミック後すぐに公開できる大作があるという意味で映画業界に重要なだけではなく、映画作成にかかわる雇用が激減している業界に、現在進行系で多くの仕事を供給しているという意味でも大切だ。映画の出来がどうであるとか、トム・クルーズが好きか嫌いかとう問題以前に、この映画作成が業界に救いの手を差し伸べているのは、多分間違いないだろう。

そんな撮影は非常に厳密な感染防止のルール下でで行われているそうだが、そんなある日、スタッフ二人がモニタをみながら近づきすぎたのが原因で、トム・クルーズがキレてしまったのだ。ちなみにこのスタッフはマスクはしていたらしいので、厳密にはルールを破ったかどうかぎりぎりの線だったようだが、とにかくトム・クルーズの怒りに触れてしまった。もしかしたら、この事件が起こる前にも同じようなことが何度か起こっていたのかもしれないし、単にトム・クルーズがストレスの多い現場で過剰なほど神経質になっていたのかもしれない。その辺りの前後関係はわからないので判断しかねるのだが、公開されたトム・クルーズの怒声は確かにすごかった。

言葉も悪くてピー音が何度も必要なほどだった。理性的な態度とは程遠く、がっかりしたファンも多いだろう。しかし、彼が怒りにまかせて怒鳴った乱暴な言葉の中には、真実が含まれていたことも事実だ。

「二度と同じことが起こるのを見たくない!次に見たら、お前は首だ!お前もだ!お前もだ!俺に謝るな!謝るなら、この業界がシャットダウンして仕事を失ってる人たちに謝れ!

「俺達が撮影をしているから、ハリウッドでは映画を作ってるんだ!俺は毎晩、保険会社やプロデューサーと電話してる!彼らは俺たちを見ているし、俺たちを使って映画を作ってるんだ!俺たちはハリウッドに何千もの仕事をつくってるんだ!いいか、この映画はシャットダウンしないんだ!わかったか!!」

トム・クルーズといえば数々の奇行も有名だし、私生活のゴタゴタも多い人なので、米国人の中には、「あの人って人間的にはどうなの?」とか「頭はよくなさそうだよね」とか思っている人も多い。しかし、彼の映画に対する真摯な姿勢は有名で、トム・クルーズはハリウッドにおける唯一無二のキャラクタだ。彼にあんな風に怒鳴られれば、誰でも相当な打撃を受けるだろう。

今回の事件については、彼を単純に批判したりバカにする人やマスコミも多いが、それと同じくらい、彼を擁護する人やマスコミも多い。それは、たぶんみんなが実はトム・クルーズと同じくらい、周囲の人々の行動に怒りを感じたり怒鳴りつけたい衝動に駆られる時があるからなのかもしれない。

たとえば、マスクもせずにお互い近距離で大声でおしゃべりをしながら公共の場を歩いている若者などをみると、トム・クルーズに怒鳴ってもらいたいよと思う。

さて、それはおいておいて、感染拡大の波は収まらず、このまま来週のクリスマスホリデーに突入すれば、現在の大波の上にさらなる大波がたつ可能性があり、そうなるとカリフォルニアの医療システムは崩壊するのが確実だ。現在でも南カリフォルニはICUのベッドは残りゼロ、すでに臨時病棟のテントが設置されている。医療関係者たちは精神的にも肉体的にもぎりぎりだ。

この日記に何度も登場しているサンタクララの保健局のサラ・コーディ博士は火曜日のZoom公開ミーティングでサンタクララ郡の犠牲者の数を報告する時に涙で声をつまらせた。いつも冷静で凛とした人なのだが、その声を震わせながら現状のレポートを続けた。画面にはプレゼンテーションが写っていたので、姿はみえず聞こえたのは声だけだったが胸をうたれた。

その後持ち直した彼女は次のようなことを言った (中略あり)。

「現在、この郡の感染拡大は制御不可能な状態です。この状態を普通と捉えるわけにはいきません。まだ私達にはできることがあり、できることがある限りそれをやるしかないのです。このまま人々を死なせる続けるわけにはいかない。確かにパンデミックは経済に打撃を与え、スモールビジネスは苦しんでいるのはわかっています。でも、もし従業員や顧客が死に続ければ、ビジネスを復活することなどできないのです。私達は感染を制御できるところまで戻さなくてはならない。今、私達は、疲れて、恐れていて、悲しい。けれども、前に進まなくてはならない。なぜなら、それが唯一私達にできることだからです。

トム・クルーズが怒鳴っても、サラ・コーディ博士が涙で声をつまらせながらも人々を励ましても、沢山の人達の届かない。

ある携帯電話のデータを取り扱う会社が、携帯電話の位置情報から人々の行動を集計するレポートを出したところ、シリコンバレーのあるベイエリアの住人は、パンデミックが始まった4月には政府や保健局の言うことをよく聞いて行動範囲が狭くなっていたのに、今回の規制がだされても、相変わらず出歩いているという結果が出たそうだ。

このデータを基に、不要不急以外は家に留まる行動に成績をつけた場合、4月の時点ではベイエリアのどこをとっても最高の A ランクだった。感染拡大を素早く抑え、「カリフォルニアの軌跡」と呼ばれていた頃だ。今の成績は良くても B か C で、サンフランシスコにいたっては D ランクだそうだ。人々は出歩いているのである。出歩く場所が減ればいいということなのだろうか、Apple のティム・クックは今日、カリフォルニアの全アップルストアの一時閉店を発表した。

コーディ博士が言うように、今からでも遅くない。少なくとも感染大波の上にさらに大波をつくらないように、クリスマスパーティや旅行はぜひキャンセルして、家族と静かで安全なクリスマスホリデーを過ごしてほしい。

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