シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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問いかけ(ロックダウン47日目・現時点の解除予定日まで残り30日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

シリコンバレーのロックダウンは47日目、1ヶ月半がすぎた。2ヶ月前には思いもよろなかった生活を送ることになった47日間で、人々の中では何が変わったのだろう。とても興味深い。

人々はこの間に、オフィスを失い、学校を失い、スポーツを失い、カフェを失い、レストランを失い、劇場や映画館を失い、友人との集いを失い、レクリエーションを失い、ストレス解消の場を失い、そして、場合によっては職を失い、親しい人間の命を失った。

たくさんのものを失った人たちの一部は、代わりにたくさんの時間を得た。家族ととも過ごす時間や一人で考える時間だ。そういう時間を得た人たちには、一体どんな変化があったのだろう。

多分たくさんの人々が自分の家族を見直すことになったのではないかと思う。ロックダウンの前には、家族のそれぞれが別々の用事に忙しかったのに、今や一日中同じ家で同じ時間を過ごしている。人によっては、それが耐えられずに自室に閉じこもり、家族によっては、会話が増えて新しい関係が築かれただろう。お互いに知らなかったところを発見することになった家族もいるだろう。時々なら許せるすれ違いが、毎日毎時繰り返されることによって、我慢できなくなった家族もいるだろう。本音を吐き出して、取り返しがつかないほどこじれた家族もあれば、その後に関係が改善された家族もあるだろう。いずれにせよ、人々が自分と家族について、改めて問いかける時間をこれまでにないほど長く与えられている。

仕事について考えた人も多いだろう。仕事を失った人たちはもちろん、失わなかった人たちも、自分の仕事だけではなく、ロックダウンでも働き続けている希少な仕事の社会的な意味について考えるきっかけになったのは間違いない。医療関係の仕事の価値と厳しさに改めて気づいた人もいるだろう。食料品に従事している仕事の価値を再考した人もいるだろう。仕事をしていることで得られる自分のアイデンティティについて考えた人もいるだろう。仕事を失ったことで社会の危うさについて考えた人もいるだろう。

学習について考えた人もいるだろう。これまであまり考えずに学校で授業を受けていた生徒が、なぜ勉強をするのかを考えるきっかけになったかもしれない。成績もつかない、先生にも呼び出されない、同級生の前で褒めらえることも恥をかくこともない状況だからこそ、純粋に学ぶという行為だけがフォーカスされる。自分にとって学ぶということはどういうことだが気がついた人もいるかもしれない。

社会について考えた人もいるだろう。時間ができたたくさんの人が、ボランティアに参加している。こういう時こそ、自分のことだけではなく、社会に対して自分は何ができるのかを真剣に考えて行動を始めた人がいるのだろう。反対に、社会から隔離されて引きこもって生きることが心地よく感じている人もいるかもしれない。また、失業や経済危機による治安の悪化について心配し、これまでの安全な社会の危うさに気づいた人もいるだろうし、時間ができたために以前よりも社会問題に精通し、考えるようになった人もいると思う。

何万人もの死が報告されるなか、生死について考えた人も多いだろう。人間は実は結構丈夫であると同時に実に呆気なく死ぬ。そして、誰が死ぬのかはいつでもルーレットのようなものだ。それに気づいて恐れを抱く人もいれば、むしろ恐れを抱かなくなった人もいるだろう。

 

歴史的なロックダウンは、多分たくさんの人たちの生き方を変えている。良い方向に変わった人もいれば、悪い方向に変わった人もいる。しかしどちらにも共通なことは、このロックダウンが解除されて、ソーシャルディスタンスが徐々に薄れていき、最終的にワクチンが開発されて、人々がロックダウン前の生活に戻る頃には、ほとんどの人たちが、このロックダウン中に自分に問いかけたことをほとんど忘れてしまっているだろうということだ。

悪い方向に変わった人はそれでいい。忘却は人間の重要な才能だ。

しかし、もしあなたに忘れるには勿体無い貴重な気づきがあったならば、せっかくの唯一無二の時間が無駄にならないように、どこかに書き留めておくのもいいかもしれない。

優しい忘却は、良い記憶にも悪い記憶にも平等に訪れる。そして、流れる時間はどんなに衝撃的な出来事もあっという間に歴史の中に風化させることができる。

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