Delta (デルタ)ってなんだ?
最近、米国のニュースを騒がしているのはCOVIDの新しい変異株 Delta だ。これは、猛威をふるい多大な犠牲者をだしているインドの変異株で、正式名称は B.1.617.2 であるが、つい先日 WHO により Delta という通称が振られた。
これまでの代表的な変異株にはギリシャ名が与えられているので、ついでに紹介すると以下の通りとなる。
アルファ B.1.1.7 英国型
ベータ B.1.351 南アフリカ型
ガンマ P.1 ブラジル型
デルタ B.1.617.2 インド型
どれもニュースで繰りかえし聞いてきた代表的な変異株だ。
今回、デルタが非常に大きな話題となっている理由は、もともとアルファ型が蔓延していた英国だがワクチンの接種が進みすっかり感染が静まった今、新規感染で見つかるのは、アルファに取って代わってデルタが優勢になったことがほぼ確実になってきたからだ。どうやら今後のパンデミックでは、デルタが主役候補として大きく一歩先に抜きん出てきたらしい。
デルタの特徴は、感染しやすくなっているすべての変異株の中でも、更に感染力が強いといわれている。また、重症化して入院する患者の割合も、これまでの変異株よりも高く、また、若い人たちの間でも重症化している例が多い。
気になるワクチンの効果だが、英国で接種されているアストラゼネカは、デルタ変異化株に対して60%の有効率、ファイザーは88%の有効率だ。ただし、ファイザーの2回接種のうち1回のみ接種している場合は有効率は33%に落ちる。アルファに対しては1回のみの接種でも70%の有効率だといわれていたので、デルタに対しては随分と効果が落ちていることがわかる。副反応を敬遠して1回のみの接種で済まそうとしていた人たちにとって、このデルタの到来は2回目の接種をする重大な根拠となるので注意が必要だ。
現時点で、米国の感染の6%がデルタだと言われているが、その高い感染力からいってこの数字は次第にあがってくることが考えられる。現在英国では、感染の60%がデルタだといわれていて、デルタに対してアストラゼネカの有効率は下がってしまうため、その辺りが大きな懸念点となっている。米国でも英国と同じようにデルタが優勢になることを回避するために、ワクチン未接種の人は可能な限り接種するように呼びかけられている。
この感染力の非常に高いデルタのために、これまで比較的感染を制御してきた東南アジアで、COVIDが猛威をふるいはじめた。できるだけ早く世界へのワクチンの分配が進むことを願ってやまない。
米国も感染が収まってきているとはいえ、未だに1万人以上の新規感染者が毎日でており、死者も一日500人前後だ。まだまだ鎮圧されているとはいいがたい今、デルタの攻撃でワクチンを接種していない人の間で、小規模な感染拡大が発生する可能性を無視できない。そんな中、さまざまな噂により感染を躊躇、拒否する人々が後をたたず、特に中部、南部の地方では驚くほどワクチンの接種が進んでいない。巷に溢れているワクチンのリスクに関する噂はどれも根拠がないものなのだが、「さまざまなワクチン危険説は根拠がなく疑わしいといっている専門家は組織的に嘘をついている」という、疑いに疑いが覆いかぶさるような、猜疑心にあふれている状態の人々にはなにを言っても、ほぼ無駄だ。
自分自身が納得してワクチンを拒否している場合は、自己責任なのでしょうがないとして、その家族や友人やコミュニティのワクチンの接種に影響を及ぼしているところが、問題なのではないかと思う。特にそのような家族を持つ若者は、本人に接種意思があっても、家族に止められてワクチンを接種できないことも多く問題になっている。親の意思に反してワクチンを受けて、家から追い出されてホームレスになったという耳を疑うようなニュースも先日読んだ。
どこの世の中にも、自分の思想以外を受け入れることができない、極端な人というのは存在するものだ。実際には、私はこう、貴方はそう。考えた方が違ってても共存できるよね、という社会が私達には必要なのだけれど。
変わる労働の概念
先週 Apple のティム・クックが発表した Apple の新しいハイブリッドワークポリシーにより、シリコンバレーのテックジャイアントが揺れている。Apple が発表したハイブリッドワークポリシーは、Google や Facebook のようなシリコンバレーの他の顔に比べて随分保守的な内容だったからだ。
そのポリシーについて簡単に解説すると、従業員は9月初旬から一週間のうち月曜日、火曜日、木曜日は全員出社し、水曜日と金曜日はリモートで在宅勤務をしてもよいというものだった。同時に一年のうち二週間の連続リモート勤務も提供されていて、従業員は家族と時間を過ごしつつ2週間、旅先であっても仕事をすることが可能となっている。
実はこのポリシーは Apple 側にとっては大きな譲歩である。Apple はもともとパンデミック前もリモートワークを推奨しないことで有名であった。その Apple が週2日のリモートワークを認めたることになったのは、パンデミックによって変化した世界が実にいろんなものを巻き込んでいることを表している。
しかし、この新しいポリシーに対し一部の従業員は大いに不満らしい。このハイブリッドポリシー、全社員に100%リモートワークを許可した Facebook と比べても、会社全体の20%に完全リモートワークを認め、それ以外の従業員は週3日の出社を目指している Google と比べても、まだまだ強制的な出社要素が強い。そもそも出社する曜日がきまっているというところが、いったいなぜ?と思わるものがある。
週3日の出社は決して悪いポリシーではない、実際にシリコンバレーでは、週3日出社ぐらいの方針でオフィスを再開する企業が多いと言われている。が、通常は一週間のどの日に出社するかは、各チームの裁量であることが多く、Apple のように全社同じ日に出社するという試みを発表したのは、たぶん初めてではないかと思う。
確かに人間同士が顔を合わせて刺激しあい協力するチームワークはよりよい製品作りや効率に影響があるかもしれない。しかし、それはチームごとに出社日を決めれば、広い範囲で通用する解決策であっただろう。しかし、Apple はそうではなくて、全社員が月火木に集合するという、だいぶ保守的なポリシーを選択をしたのだ。
実はこのニュースを聞いた時に、Apple とは全然関係ない在宅仕事をしている私も、Apple の保守性に驚いたと同時に、ちょっとがっかりした。というのも、ここシリコンバレーではテックジャイアント、特に Goole と Apple の従業員が出社することが原因になる朝夕の大渋滞がこの一年間なく実に快適なドライブが可能になっていたのだ。パンデミック後に彼らが再出社するようになったとしても、一週間の何日かは出社しない可能性があるので、交通量は一週間にならされ、あの憂鬱な渋滞はシリコンバレーには帰ってこないのではないかとひそかに願っていたのだ。
もし、Apple の社員が全員同じに出社するとなると、結局、月火木曜日は再びあの憂鬱な大渋滞が帰ってくる可能性は高い。もうこれは月火木の朝夕は出かけないことにするしかないなと思ったりする。Apple と関係のない私でさえも、がっかりしていることを考えれば、実際にその渋滞を回避するという選択肢をもたずに出社する従業員たちはがっかりしただろうなと思う。
この Apple のポリシー発表に伴い、一部の社員は連盟で手紙を会社側に提出し、出社日の決定は各チームの裁量にしてほしいと嘆願しているそうだ。同時に、Apple が引き続きリモートワークに保守的な態度を続ける場合、従業員たちは会社と柔軟な勤務体制のどちらかを選択せざるえなくなることを示唆していた。
パンデミックは、その猛威をふるい続けた15ヶ月の間に、米国のホワイトカラーにとっての「労働」という概念を根本から変えてしまった。「労働」の概念が変わるに伴い、多くの人々は「生き方」も変えてしまった。Apple はこの深く大きな地殻変動を見逃すと、その唯一無二の会社文化を守るどころか、失う可能性があることに、気付かされたところなのかもしれない。
パンデミックはチップ文化にまで影響
最近サンフランシスコで話題になっているのは、レストランの室内営業が本格的に再開するに伴い、ウェイターやウェイトレスを雇うのが非常に難しいという話題と並んで、名のあるレストランが旗振りしているチップ制廃止へのうねりである。この画期的な動きは、パンデミック前から始まったものではあるが、パンデミックが決定的な決断への影響を及ぼしているのは間違いない。そして、賛否両論、様々な議論を引き起こしている。
そもそも議論が始まったきっかけは、サンフランシスコで30年以上、その有名なローストチキンで名声を保持してきた老舗カフェ Zuni が室内サービス再開に応じて、チップ制を廃止して、代わりにレストランで食事をするときに一律10%のサービス料金を請求すると発表したことだ。
Zuni の経営サイドの説明によると、チップ制の廃止は以前から議論されていたという。そもそもチップ制の問題は Zuni だけではなく、長年レストラン業界で議論の対象になっていた。
第一に、チップは基本的にウェイターやウェイトレスという店のフロント(表側)にでる従業員に支払われるものなので、彼らの間で分配されるケースが多い。ところが、レストランには店のバック(裏側)にもたくさんの従業員がいる。それなりに給料をもらっているヘッドシェフならまだしも、アシスタントのシェフ、材料の下ごしらえをするフェフ、皿洗いなど、低収入で働いているにも関わらず、チップにもありつけない従業員たちがいるのだ。この不公平さが問題となっていて、より公平な給料の分配が必要であるとは以前から議論されてきたらしい。
第二に、チップが人種差別や性差別を助長していると言われている点だ。ときには客によるセクシャル・ハラスメントに発展することもある。また、パンデミックでマスク着用が政治化された時期には、チップがほしければマスクをとれなどという客からの横暴な要求まであったそうだ。そのように、客がウェイターやウェイトレスの見かけや行動に値段をつけるというチップという制度そのものが正しくないと考える人々も多いのだ。
しかし、それでもなかなかチップを廃止するという決定的な動きに至らなかったのは、一重にそれによって影響を受けるウェイターやウェイトレスの反発にほかならない。彼らの時給も決して高くはないので、チップをもらえなくなれば暮らせなくなることも多いのだ。
さて、Zuni の話に戻すと、パンデミックによりその従業員の多くを解雇し、持ち帰り営業でつないだ Zuni は、レストランでの飲食を再オープンの際に、どういう形にするかを考えた。未だ完全に集結していないパンデミックのことを考えれば、従業員たちによい健康保険を用意するのは重要だと彼らは考えた。米国は日本のような社会制度が健康保険を国民に保証してくれる国ではない。その上、中小規模のビジネスの場合、雇用主が従業員の保険を用意するかどうかは強制ではない。よって、ハイエンドな店でないかぎりレストランビジネスは健康保険が用意されていないことも多いはずだ。また、用意されていたとしても、その保険料の一部を従業員が負担しなければいけないことも多いので、むしろ従業員の方から加入しない選択をすることもあるだろう。つまり、加入しやすい健康保険が用意されているレストランは、それだけ従業員にとっては健康リスクが低く福利厚生がよいと考えることができる。
Zuni は、健康保険の完備、より公平な収入の分配、そして社会に蔓延する差別の抑制を目指して、チップ制を廃止するという選択をしたわけだ。これだけ聞くと、Zuni の理想は素晴らしく聞こえるし、外野の私達からすれば、よいレストランだから今度行ってみようと思うきっかけになる。
しかし、実際に数字をうけとった従業員はショックを受けた。
細かい数字をここで披露しよう。パンデミック前 Zuni で20年以上働いているウェイターは、チップだけで1日200ドルほど稼いでいた。これに、ベースの時給を足して、週35時間働いた場合、年収は70000ドルだった。随分もらっているように聞こえるかもしれないが、サンフランシスコは物価が高い。サンフランシスコの最低生活水準は年収82000ドルだとうことを知っている必要がある。
さて、パンデミックで解雇された多くの従業員たちは Zuni が彼らを雇い直すことを信じていたわけだが、実際電話がかかってきて提示された時給は24ドルだった。この申し出を聞いて、生活ができないと頭を抱えた元従業員たちは多いはずだ。時給24ドルチップなしでパンデミック前と同じペースで働いた場合、年収は40000ドル、つまり30000ドルの減収になってしまうのだ。確かにこれでは生活ができない。
もちろん、彼らは店と交渉しているが、時給30ドルまであげてもらっても、年収は50000ドル、店から最高時給とされている35ドルまであげてもらえても、年収は58000ドル止まりなのだ。どうあがいても、Zuni で働く限りパンデミック前の収入を得ることはできない。たとえ、健康保険がついたとしても、生活できなければ意味がないのである。
そのうえ、以前の日記にも書いたように、現在レストラン業界はウェイター・ウェイトレスの売り手市場だ。今の時代、リスクが高い職業だけあってなり手がいない。ロックダウンによる失業中に、失業保険にサポートしてもらって暮らしていた人々は、安定した職業に職替えを試みている人もたくさんいる。このため、レストラン業界はスタッフがたらずに、普段なら働くことのないビジネスオーナーも店に出なくてはならない状態だ。時給をあげて募集しなくては新しい従業員は集まらない。
こんな状況なので、Zuni の挑戦は非常に危ういと誰もが感じている。実際にパンデミック前のフロントスタッフ27名のうち、この新しいシステムでの雇用を受け入れたのは現時点で7名だけである。13名は、このシステムが決まる前にパンデミックによる様々な都合により Zuni から離れていた。残りの7人は未だ決めかねているか、返事すらしないかのどちらかだそうだ。すべての問題がチップ制廃止にあるわけではないけれど、チップ制廃止は従業員が戻ってくるかどうかの決断に影響与えているのは間違いなく、またほぼ全員がパンデミックの影響をうけていることは疑いようもない。
さて、Zuniのニュースがサンフランシスコのヘッドラインを飾ってから数日、追従するレストランのニュースも賑わっている。果たしてパンデミックは、サンフランシスコでのチップ制衰退の触媒になるのだろうか。その場合、ウェイターやウェイトレスたちは、この狂気的に物価の高い街でどうやって暮らしていくのだろうか。これまで、アシスタントシェフや皿洗い人員が使っていたサバイバル方法を学んで暮らしていくのだろうか。
彼らの一人が言っていた。
確かにバックスタッフの給料を上げるのは大切だし、公平な分配も良いことだと思う。しかし、私達の給料を減らして、彼らの給料を上げるのは違うと思う。
実に難しい問題だ
パンデミックが世界を変える
米国の感染が去年の3月末並の新規感染者数まで収まっている。カリフォルニアがロックダウンを宣言したのが去年の3月16日だったことを考えれば、去年の3月末はまだパンデミックの初期も初期、ニューヨークのオーバシュートが発生する前の、今考えれば非常に穏やかな時期だった。そのレベルまで収まってきた米国の感染は、この夏にはもう大波が起こることはないだろうと言われている。すでに米国民の60%を超える人が少なくとも1回ワクチンを接種しているし、被接種者の中には感染して免疫を持っている人もいると考えれば、免疫保持者の割合は相当高くなってきているはずだ。
このような状況を反映して、米国の企業は徐々に従業員を在宅勤務からオフィス勤務に戻そうという動きが始まっているのだが、1年以上も続いた在宅勤務を経験した従業員のなかには、オフィスに戻らなくてはならないなら辞職するといういう人が少なからずいる。実際にたくさんのホワイトカラーの従業員が、オフィスに戻るように企業に言われてから、転職活動して在宅勤務を認めてくれる企業へ次々と転職している例がたたない。「オフィスに戻るようにいわれたとたんに、同僚がどんどんやめていく!」というツイッターが話題になる今日このごろだ。
これまでは選択肢がないと思っていたオフィス勤務だが、長い在宅勤務を経て、実はほとんどの作業は自宅でもできることがわかってしまった。自宅での勤務の柔軟な時間の使い方を体験した従業員たちは、二度と再び往復2時間の通勤や、仕事、ミーティング、仕事を次々と繰り返し続ける、柔軟性のない働き方に戻れるとは思えなくなってしまったらしい。これまでならば仕事の後、夜にしなければいけなかった家事や用事も、自宅勤務なら仕事の合間に気分転換で片付けることができる。自分の行きたい時に、散歩や運動にでかけることもできる。
相反して、実は多くの雇用主は従業員にオフィスに戻ってきてもらいたい。雇用主は、オフィスで一緒に働くことは、協力作業がよりスムースだし、企業文化の育成につながると考えている。某アンケートの結果によると、パンデミック前のオフィス勤務の状態に完全にもどしたい(もどせる)と思っている雇用主は全体の5分の1に満たないが、かといって、完全に自宅勤務にしてオフィスをなくしてもいいと思っている雇用主は、たったの13%だったそうだ。アンケートの結果によると、週3日は通勤してほしいと考えている雇用主が一番多いそうで、雇用主の世代が年をとるほど、従業員のオフィス勤務を希望しているのも特徴である。
週5日から週3日の通勤になるのだから、それだけでも十分だと考える従業員がいる一方で、週3日でも通勤にかかる時間を無駄にしたくないと考える従業員も多い。従業員側に対するアンケートでは、もしオフィス勤務に戻れと言われたら会社をやめるかどうかという質問に実に39%が「やめる」と答えたそうだ。特に若い世代になると、50%近くが「やめる」と答えたという。
パンデミック前には、そもそもこのような質問がされたことはなかっただろう。まさか、今のように強制的にオフィス勤務ができなくなるなんてことは、誰も考えていなかった。パンデミックは世界にとてつもなく多様な影響をおよぼし、ものごとの前提条件や常識を作り変えている最中だ。
たとえば、レストラン。ロックダウン中に安全に営業するために、多くのレストランが、地元政府の許可を得て、車道を一本潰して洒落たパテオを仮設しアウトドアダイニングを推奨してきたのだが、感染がおさまり室内で食べられるようになった今でも、多くの顧客はアウトドアパテオを楽しんでいる。レストラン側もせっかく作ったパテオをやめるのは忍びないので、このまま残させてほしいという嘆願があちらこちらで出てきているらしい。カリフォルニアの道端のパテオ文化は、今や誰の目にも慣れ親しみ、むしろあれがあるのが街角のカラーになりつつある。今日、ニューサム州知事はこれらの車道にはみ出ているパテオの営業を今年末まで継続する許可を発表した。経営難のレストラン支援や感染防止の意味もあるが、なによりもパテオで食事をすることが文化として浸透してきていることも1つの要因かもしれない。
また、スポーツジム。スポーツジムも今や室内営業が可能だ。しかし、多くのメンバーはアウトドアに仮設されたジムを使い続けている。青空の下で風に吹かれて運動するのは実際のところ悪くない。日差しはテントが防いでくれるし、気温は少しぐらい寒かったり暑かったりするほうが運動する目的に合致している。アウトドアジムやアウトドアグループエクササイズもしばらくは残るだろうし、もしかしたら、残り続けるかもしれないなと思う。
マスク。パンデミックでマスクの効力を知った人々は、これからもインフルエンザや風邪が流行る季節には。再びマスクをつけようと思うのではないかと思う。ちなみにカリフォルニアでは6月15日にマスクの強制規制が解除される予定だが、その後も、職場に一人でもワクチンを接種していない従業員がいれば、職場は全員マスクをしなくてはいけないというのが新ルールだ。このルールにより、どうやら6月15日以降もほとんどのレストランの従業員はマスクを着用し続けることになるだろうと言われているが、従業員も顧客もマスク姿に慣れきってしまっているので、むしろマスク姿の店員のほうが顧客は安心できるよな気がするし、実際にそういう発言をしている米国人をニュースでみたところだ。
学校。1年以上続いたオンラインスクールを機に、あちらこちらの学区でパンデミックとは関係なく、本格的なオンラインコースを構築する努力が本格化した。秋の新学期には、学校に登校するスタイルの学校と合わせて、オンラインコースも開設され、学生は選択できるようになるらしい。すでに我が家のティーンの学区でもこの試みが始まっていて、オンラインコースの申込みが始まっている。
変わったのはパンデミック中の世界だけではなく、パンデミック後の世界だ。それは、15ヶ月という長期間のパンデミックとの戦いの中で、人々の優秀な適応能力が働き、人々の考え方や思想が変わったことにほかならない。
そうか。パンデミックが世界を変えているんじゃなくて、人間の脳の柔軟さと適応能力の凄さが世界を変えているんだな。
今、実は重要な期間です!
パンデミックがはじまってからというもの、あちらこちらで2週間という期間が重要になった。特にワクチンの最大潜伏期間としてよく使われる「2週間」は、私達のさまざまな行動や規制の根拠になっている。この日記でも何度も使われたが、休日に旅行者やパーティが増えた場合、その影響による感染拡大が表面化するには、2週間待たねばならないという風に目安とされた。
また、ある地域で急激に新規感染者数が増加した時には、2週間前のカレンダーを調べて、いったいその頃なにがあり、なにが拡大の原因なのかを調べたりもした。選挙のために大きな集会がマスクなしで行われた場合、マスコミはその街の感染状況への影響を調べる時に、2週間に念頭にいれてニュースを放映していた。
さて、先週末は、ワクチンが普及し、米国の接種対象者の約半分がワクチンを接種済みという状態になって以来、はじめての三連休だった。去年の同じ休日、Covidをみくびったたくさんの人々が、旅行やパーティに繰り出し、その2週間後、米国が感染の第二波に飲みこまれる発端となった休日だ。そんな黒い記憶のある休日、米国ではパンデミックに勝利したと感じる人々が、浮かれ気分で旅行をしたり、家族や友人と再会したり、パーティをしたりした。
覚えていたほうが良いのは、まだその休日から2週間たっていないということだ。今現在の感染状況はとくに週末前と変わらずに非常に低い。当たり前だ。これまで米国が何度も経験したようにCOVIDは感染拡大したからといって、そんなにすぐに表面化しない。いつだって、影響が目に見えるようになる前に2週間ほど必要なのだ。
この三連休は特に誰も言わなかったけれど、現実世界におけるワクチンのストレステストだったといってもよいと思う。国民の半分がワクチンを接種し、半分が接種していない状態で、人々が以前の生活のようにパーティをしたり、レジャーを楽しんだ場合、感染はどこまで抑えられるのか、それとも拡大してしまうのか。
その答えは今から2週間後にでることになる。
2週間経っても、感染拡大が始まらず、感染者数が減り続けているようならば、私達はあたらめて、ワクチンの現実世界での高い効果を再確認することになり、同時に集団免疫達成への数値も再調整されるだろう。
今週の月曜日からカリフォルニア再オープン予定である6月15日まで、なんの予定のない、これといって特徴のない、なんでもないような2週間だが、実は今後のパンデミックを行方を占ううえで重要な2週間である。
良い結果が出てほしい。そして、その良い結果を掲げて、6月15日にカリフォルニアのロックダウンが正式に終結するのをみたいと思う。
日本がどんどん遠くなる
米国の感染状況は徐々に良い方向に向かっているというのに、相反して日本がどんどん遠くなる。
今日、日本の外務省からの通達で、カリフォルニア州から日本に帰国した日本人に対して3日間の停留処置が決定したとの報告があった。これまでは2週間の自主隔離だったのだが、そのうち最初の3日間を検疫所指定の宿泊施設に滞在し、再検査の結果を待たなくてはならなくてはいけなくなった。すでに、米国出国直前に検査を受けてその結果を持っていかなくてはならなかったのだが、それにもう一段階検査が追加された形だ。
これにより、入国後、自分で手配したホテルや自宅(実家でもよい)での2週間の自主隔離だけでも十分に大変だったところに加えて、最初の3日間はそれすらもできず、たぶん空港の近くのどこかに3日間待機させられることになったわけだ。2週間の隔離だけでも日本への帰国は難しいと思ったところに、さらに厳しさが増してしまった。ワクチンの接種が進んで帰国できる日は近くなると思っていたのだが、どうも最近どんどん遠くなっているような気がする。
それでも、日本のワクチンの接種体制がよくなってきているという話を伝え聞いているのが不幸中の幸いだ。米国のワクチンの接種をみてきた私達は、ワクチンの接種が勧めば確実に感染が収まることを予測できる。頑張ってほしい。
世界では、いまだにワクチンの最初の接種にたどりつけていない国も多く、その不公平さが毎週話題になっている。米国が提供する8千万ショットのワクチンがどの国にどれくらい分配されるのかも注目されているし、今後ワクチン生産国がどれくらい貧しい国々にワクチンを提供していくかにも視線が集まっている。
そんななか、米国国内ではすでに、ブースターショットの臨床試験がはじまるといわれているが、中でも注目されているテスト内容は、米国で使用された3種類のワクチンのうち、最初の接種でうけたワクチンと違うワクチンをブースターショットとして受けた時になにが起こるかという試験だ。この試験のためにまず大人150人の治験者が、最初に受けたワクチンと違う種類のワクチンをブースターショットとして接種するという内容のテストを行う。たとえば、ファイザー接種者がモデルナを、モデルナ接種者がジョンソン&ジョンソンをという感じである。
これは確かに興味深いテストだが、テスト結果が未知である分、治験者になる人はちょっと勇気がいるなあとうのが素直な感想だ。まあ、そんなことをいったら、最初のショットの治験者になった人たちはもっと勇気が必要だったと思うのだけれど。
個人的には自分は最初にファイザーを接種したので、願わくばブースターもファイザーを接種したいなと思っているわけだが、治験で特に問題がなければ、そんな贅沢を言っている場合でもないかなとも思う。米国を含め世界の一部の国では感染は収束しているのだが、世界的な規模でみたときは、パンデミックは収束どころが拡大の一歩だ。そして拡大スピードはむしろあがっている。感染して犠牲者がでることも恐ろしいが、これだけ拡大してしまうと更に強力な変異株の誕生が懸念される。今現在、ワクチンは変異株にも効果があることが次々と発表されているが、今後はわからない。
このまま、世界でCOVIDが暴れ続ければ、国々は水際対策として国境を厳重に監視しなくてはならなくなり、世界の国々は互いにどんどん遠くなる。ネットワークを通じては仮想世界では近くなっているのだけれど、物理的にはいったいいつになったら以前のように気軽に帰国できるのかまったく目処が立たない。
レストランは空前の被雇用者市場
今もしウェイターやウェイトレスの仕事を探そうとしているのならば、仕事を見つけるのは簡単だ。求職史上最も簡単な時期かもしれない。ワクチンの普及と規制緩和に伴い、米国のレストランは次々にその扉を顧客たちに開き始めた。持ち帰りの料理で難をしのいでいた多くのレストランのオーナーたちは、待ちに待った再開店に胸を踊らせたに違いない。そして、解雇してしまっていたウェイターやウェイトレスたちを慌てて雇い直そうとした。
が、彼らの多くは、再就職のために帰ってこなかったらしい。今やレストランはその営業を継続するために戦々恐々だ。規制が緩和された始めた街には、これまで家に閉じこもっていた分まで楽しもうと、人々がくりだし、美しい天気もあいまって、店のパテオでくつろぎ料理に舌鼓をうとうとしているが、そのお客様をもてなすべきウェイターやウェイトレスが足りないのだ。
この自体の原因を、毎週300ドル上乗せされている失業保険のせいにするのは簡単だ。実際にレストランのオーナーや団体は、現政権によりCOVIDに対する経済対策の一環として失業者に支払われている給付金が、これらのウェイターやウェイトレスが職場に戻ってこないことの原因だと叩いているのだが、本当に原因はそれだけだろうか?
実は、パンデミックが始まる前もレストラン業界はウェイターやウェイトレスを見つけるのに苦労をしていた。給料は安く、重労働で、ストレスの高いこの職業は、もともと就職先として夢見るような職業ではない。その上、パンデミックがこの職業の不安定性を非常に明確に表面化してしまった。
昨年、多くのレストランはパンデミックの規制が強化されるにつれ、持ち帰りや配達を中心にした営業に切り替えたわけだが、多くのレストランオーナーたちは生き残りをかけて、多くの従業員を解雇または一時的解雇することになった。あっという間に仕事を失ったウェイターやウェイトレスは、店にとっての自分の仕事の価値を嫌がおうにも知ってしまうことになったのである。
また、料理人の中でもこの現象は起こった。毎日調理される料理の数が減っていく状態の中、全員の料理人を雇い続けるほどの売上がなかった店は、いなくてもなんとかなる料理人から順番に解雇することになる。働き続ける料理人もいる中で、解雇された料理人は、必然的に自分の仕事の価値を目の前に突きつけられた形となってしまった。
その一方で、パンデミックの影響を全く受けずに、バーチャルで在宅勤務し続けるホワイトカラーも多く、その様子をマスコミや人づてにきくにつれ、自分がこれまでやってきた仕事は、賃金が安く、重労働であるだけではなく、こんなにも格差があり、簡単に見捨てられてしまう仕事であることに、多少なりともショックをうけたに違いない。そして、パンデミックが終わったときには、こんな不安定な仕事に戻りたくないと考えたとしても、誰も責めることはできないんじゃないだろうか。
幸いなことに政府からは、失業保険に上乗せの給付金が出ているのだから、これを期に勉強したり資格をとったりして、キャリアアップをしようと考える人がいてもまったく不思議ではない。実際にパンデミック中に解雇になった多くの人々は、もとの仕事に戻る気がないとアンケートに答えている。
また、彼らほど弱い立場にではなかった人気店のオーナーシェフでさえも、規制中に店を維持するのに多大なストレスを抱えていたところに、人種差別反対運動が盛り上がったタイミングで、「Black Lives Matter を応援します」と店のサインに掲げた途端、客の一部から抗議を受けるはめに陥った彼は、さっさと店を閉めてしまった。もう二度とレストランビジネスに手を出したくないと、たとえ人気店であってもレストランというビジネスの立場の弱さを痛感したそうだ。
レストランで働けなかったら他に働く場所がないのであれば、これらの人々はそんなに悠長なことを言っているわけにはいかないが、実際は意外と生き残る道はあるらしい。新しいスキルを身に着けて就職するものもいれば、大手スーパーの中に入っているカフェで働いたり、持ち帰り専門チェーンで再就職している者もいる。新しい就職先に求められるのは、少なくともきちんとした健康保険などの福利厚生が整っていることだ。このような福利厚生は、小さな個人経営のレストランではなかなか用意できない贅沢なので、働くものとして一段上を行く待遇を得られたことになる。
先程出てきた人気のオーナシェフぐらいの知名度とスキルを持っている場合、会社や個人のパーティでの出張シェフとして活躍しつつ、Youtube でお料理番組を配信することにより、レストラン経営よりもずっとストレスの少ない毎日を送れるようになったそうだ。
こんな調子で、多くのレストラン従業員はその業界から離れようとしいる。今やレストランを経営しようとするビジネスオーナーは、顧客のためにベストなレストランでいるだけではなく、従業員のためにもベストな就職先でいなくてはならないことを念頭におかなくてはいけなくなった。
という感じに、パンデミックの影響はこんなところにもある。パンデミックを引き金に、新しいレストラン文化が育ちつつある今、そのうち注文をとったりお料理を運んできたりするのは人間じゃなくてコンピュータやロボットになる日が、実は少し近づいたのかもしれないと思った。